東海道五十三次を歩く
第3回 畑宿から三島・笠原新田まで

1999年11月3日

 1999年11月3日、妻の節子と歩く。東海道を妻と同行するのは初めてだ。前回畑宿でリタイアして、箱根宿まで行けなかったので、箱根湯本でロマンスカーを乗り換え、バスで畑宿に移動した。間の宿、畑宿は箱根東坂の中間にあり、かつて人や馬を継ぎ立てる「立場」として賑わった.
 9時58分、畑宿一里塚を出発。途中、JTB主催の旧東海道を歩くグループとしばらく平行して歩く。旧街道資料館・甘酒茶屋までの区間が箱根東坂で最も激しい上り坂となる。10時43分、一時間も歩いていないのにくたびれた。萱葺き屋根の甘酒茶屋が見えて、ほっとする。まだかまだかと思う期待が叶うと、こうもうれしいものか。江戸時代には、四軒あった茶屋も現在はこの一軒のみ。この茶屋は、昭和48年にハイカーのタバコの吸殻から火事で焼失。昔ながらの風情を残し、テーブルや椅子は大木を輪切りにしたもの。テーブルの上には、寄せ木細工の入れ物に箱根の成川美術館の割引券が入る。「土産にフキノトウの漬物をどうぞ!」の声がかかる。自家製のこうじだけの甘酒の土産もある。黄な粉の阿部川もち二つ(450円)とフキノトウの漬物少々、砂糖を使わないこうじだけの甘酒(400円)をいただく。木札には「一杯のお茶も大切に!」の言葉が書かれる。
 さあ、一息入れたので元気が出る。1キロで天ヶ石坂の急坂、六道地蔵道標から下り、権現坂辺りから、木々の合間から芦ノ湖が見える。
 甘酒茶屋から元箱根までの石畳道は、かつて何回か観光コースに組んで、この区間だけお客に歩いてもらおうと言う、いわば「江戸時代を偲ぶ、弥二喜多道中を体現する」コースだった。2キロを約40分〜1時間くらいで通過できたと思う。お腹をすかせての昼食はきっと美味しかったと思う。


大涌谷から眺める芦ノ湖(020330)  画 神徳泰彦 
 芦ノ湖畔には、「賽の河原」と言う地名があり、六地藏や石塔姿が残る。これは六道地蔵道標のそば精進ヶ池周辺にあったのを移した鎌倉時代の地蔵信仰の跡だとか、いろんな説がある。道路の対面に現代日本画所蔵の成川美術館がある。この辺りから、2キロにわたる杉並木が414本続く。東海道はほとんど松並木なのに、寒さのせいか箱根だけ杉並木だ。
 元和4年(1618年)川越藩主松平正綱によって植えられた、樹齢360年もの大杉には感動ものだ。よくぞこれまで生きてくれた。家内と杉の太さと高さを見上げて、「ふ〜ん。は〜。」という感嘆詞が口をつく。箱根関所跡と資料館を見学した後、関所跡レストランの前のオルゴール食堂のテーブルで休憩をする。甘酒茶屋から丁度一時間かかった。12時30分、蕎麦処美濃屋で昼食、天ぷらそばを賞味。美濃屋の前は、名物ひみつ箱の提灯が下がる。寄せ木細工の箱か。祭日のせいか、蕎麦屋はひっきりなしに客が出入りする。
 昼食後、繁華街を抜けて駒形神社から先に、石畳入口がある。箱根峠(標高849m)の先まで国道に合流、横断したりを繰り返す。13時8分、峠からの眺望はすばらしいが、ゴルフ場が目立ち、旧道の雰囲気とは相容れない。2キロも下ると、江戸後期に旅人の為の無料休憩所だった接待茶屋跡に13時34分着く。明治維新で一時つぶれ、明治12年、大原幽学の門弟たちにより復活、昭和45年(1970年)まで、茶などの接待が行われたという。それだけ箱根越えが大変だった証拠だろう。なにせ昔は今のような運動靴などなく、わらじ履きだったのだから。さらに1キロ下ると、盆と徳利が浮き彫りになった雲助徳利の墓が右手に。もうこの辺り、足腰と摺れた足の小指に、痛みを感じる。山中新田の山中城跡は戦国時代の小田原北条氏の山城で、秀吉軍に攻められ、半日で落城したと言う。そこから2000m南に、宗閑寺があり、山中城攻めの折の戦死者たちの墓がある。
 一路、下れ下れの掛け声で、だんだんと遠のく景色を眺める余裕がなくなってくる。何とか三島宿まで頑張ろうといっていたが、私も家内も足腰の痛さに勝てず、14時54分笹原新田の一里塚で休憩する。この新田の地名が、ここには五ケ所ある。山中新田、笠原新田、三ツ谷新田、市ノ山新田、塚田新田と甘酒茶屋から三島までの距離が長いため、人馬の休憩所を人為的に造ったものだ。三島の在郷の次男坊や三男坊をこの土地に移住させて開墾させたと言う。
 家内と熟慮した上で、ここでリタイアして、バスで三島に移動することにした。次回は三島から笠原新田ま でを歩くことにした。しかし、バスでの移動は実に楽でいい。歩くと一時間平均2.5キロ程度しか歩けないが、バスだとわずか5分で行ってしまう。文明の利器はすばらしい。
                                              (水彩画 神徳泰彦 )
リンク こうとく水彩紀行(ギャラリー神徳)






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